らぷそでぃ〜 いん アドラー心理学 

 アドラー心理学の「わけ」


 前章のアドラー心理学ってなに?では、仮説が学問として認められるには、それなりの「わけ」があることを説明した。ここでは、それなりの「わけ」を説明する。それはズバリ!

 アドラー心理学は育児・教育の分野で価値が認められた心理学なのである!

 時代は第1次世界大戦後までさかのぼる

 アドラーの母国オーストリアは第1次世界大戦で敗戦国となり、社会は混乱しさまざまな社会問題が起こた。そんな時代アドラーは社会の復興として育児と教育に関心を向け1922年に世界最初の児童相談所を設立した。この相談所は子供や親の相談のみならず、教師、カウンセラー、医師の教育の場としても活躍し、自らのカウンセリングを公開して見せたのである。

 ところが、まことに残念なことが起こる。ナチズムの台頭である。

 アドラーが設立した児童相談所はナチズムによって潰されていった。1935年アドラーはアメリカに亡命するが、1937年心理学としての理論体系が不十分なままアドラーは急死する。このように諸般の事情によってアドラー心理学の勢いは急速に衰えてしまったのである。

 しかし、ナチズムの台頭でアメリカに亡命していたアドラーの弟子ルドフル・ドライカース(1897-1972)は風前の灯だったアドラー心理学を、さまざまな困難と戦い、そのパワフルな活動によってアドラー心理学を復権させたのである。

 ドライカースは不十分なままだった理論体系を再構築し(注1)、さらにアドラー心理学に基づいた教育の方法、育児の方法を完成させた。それは従来の親や教師の権力による賞と罰(飴と鞭)の方法論に替わる、信頼と協力に基づく育児の方法、教育の方法であった。

 1964年に出版されたビッキ・ソルツとの共著「Children:The Challenge」はアメリカでベストセラーとなった。邦題「勇気づけて躾ける」を読んでみると、その内容の深さに驚く!因みに1964年出版された古い本だと心配する必要はない。
 ここに書かれているの内容は場当たり的な対応や机上の空理空論でなく、心理学の理論に裏打ちされ。さらに実践に揉まれた内容であることが理解できる。一家に一冊「勇気づけて躾ける」必読書である。(注2)

 どうです!世界最初の児童相談所を設立したアドラーの熱意。アドラーの意思を継いで、信頼と協力に基づく教育の方法、育児の方法を完成させたドライカース。これらの背景を考えるとアドラー心理学が育児・教育の分野で大いに貢献し、その価値が認められた「わけ」が理解できる。


(注1)理論体系の再構築にアンスバッハー夫婦の努力を忘れてはならない。
(注2)といっても、やっぱりアメリカと日本の文化には違いがある。本に書かれている事例をそのまま実行すると少々過激な部分がある。さらに、ついでながら育児は親子の信頼関係が重要である。「勇気づけて躾ける」を単なる子どもの操作法と勘違するのは不適切である。


参考文献
 A.アドラー 著  岸見一郎 訳 「個人心理学講義−生きることの科学」   一光社
 ロバート・W・ランディン 著 前田憲一 訳 「アドラー心理学入門」 一光社
 R.ドライカース 著 宮野 栄 訳 「アドラー心理学の基礎」  一光社
 アレックス L.チュウ 著 岡野守也 訳 「アドラー心理学への招待」 金子書房
 A.アドラー 著 W.B.ウルフ 編 岩井俊憲 訳 「アドラーのケースセミナー」 一光社
 R.ドライカース+V.ソルツ 著 早川麻百合 訳 「勇気づけて躾ける−子どもを自立させる子育ての原理と方法」 一光社


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