●ベートーヴェン 交響曲 第5番
パドヴァ・ヴェネト管弦楽団
録音:1995年2月5/6日
Arts 47247−2(輸入盤)
「♪ジャジャジャ〜ン運命は、かく戸をたたく」ベートーヴェンは弟子にそう語ったらしく「運命」と呼ばれて
いる。しかし、これは日本だけらしい。輸入物のCDにはSymphony No,5としか書いていない。
この逸話は日本だけに広まったのだろうか???
私が「運命」を全曲通して聴いたのはクラシック音楽に興味をもちはじめた頃だった。私は第1楽章の「♪
ジャジャジャ〜ン」より第4楽章の「♪ター・ター・ターー・ティ・タ・タ・タ・ターー」に圧倒された。聴き手をこれ
ほどまでに高揚させる音楽はそう多くない。
今回この感想文を書くにあたり手持ちのCDをいろいろ聴いた,フルトヴェングラー,トスカニーニ,クレン
ペラー,ムラヴィンスキー(逝去順)どれも個性丸出しの演奏である。宇野功芳氏(注1)曰く「ベートーヴェン
ぐらい,あらゆるスタイルの演奏に耐え,それなりに素晴らしく響く音楽はない・・・・」との言葉にうなずいてし
まう。
特に強烈なのはフルトヴェングラーで’47年5月27日DG盤と’54年5月23日TARA盤は玉木正之氏(注2)
曰く「これぞ苦悩を抜けて歓喜にいたるエクスタシー!〜中略〜もっとも○○○ーのやりやすい○○写真集」
と書いている。やっぱりハッキリ書いてしまう玉木氏はすごい!?私は恥ずかしくて書けないが・・・・どうしても
知りたい人は本で確認してもらいたい。
ではマーク様の演奏は!?飯守 邦也曰く「イタリアの青い空!?」(と言っても本物を見たことないのです
が・・・・)「♪ジャジャジャ〜ン」横溝正史/原作,市川 昆/監督の金田一耕助シリーズのようなおどろおど
ろしい雰囲気は皆無,テンポは中庸,奇を衒ったところはなく,残響豊かなホール・トーンを生かしたやわらか
なサウンド,etc,どうです「イタリアの青い空」って言葉が似合うでしょう!?
まぁ、それは置いといて・・・・
表現はことごとく中庸でかつ、やわらかなサウンドでありながら白痴美人的な演奏とはまるで違う非凡な演奏
に仕上がっている。最初,冒頭を耳にしたときは「ベートーヴェンの重厚さが足りない!」と思ったが・・・・それ
がどうした!?充実した演奏に耳が奪われた。有名な運命の動機は山々の紅葉のように折り重なり,第2楽
章の歌い方は感性に溢れ,スケルッオから終楽章は肩に力の入った演奏とは異なり,むしろ肩の力を抜き力
を解放することによって生じる微妙なニュアンスを楽しむことができる。
「歓喜にいたるエクスタシー!」がすべてなのか???
第5番はこのようなアプローチでも素晴らしく充実した音楽が展開されることを思い知らされる。そうあの
「イタリアの青い空」のように・・・・
それからカップリンの6番「田園」同様にオケがすばらしい!指揮者に対する信頼感や,音楽に対する共感,
演奏する喜びが録音といったメディアを通して伝わってくるのはうれしい限りである。
(注1)宇野功芳/魂に響く音楽/音楽之友社
(注2)玉木正之/クラシック道場入門/小学館
01/12/23
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