●モーツァルト 交響曲 第40番
 パドヴァ・ヴェネト管弦楽団
 録音:1996年2〜3月
 Arts 47363−2(輸入盤)





 今回は大変有名なモーツァルト交響曲第40番を取り上げる。感想文を書くにあたりCDラックを調べたら”あらびっ
くり”18種類ものCDがゾロゾロ出てきた”いっ!いつの間に!?しかも古楽器の演奏がブリュッヘン盤1枚だっけだ
のが私らしい、しかもその理由が”なんとなくソウなっている”なのが益々私らしい・・・・

 さて、第1楽章の冒頭は弦のさざなみに乗せて有名な哀愁溢れるフレーズが登場する。楽譜にはP(弱音)の指定に、
Molto Allegro(非常に速く)と書かれているだけである(楽譜:1)。しかし、このフレーズは速いテンポもよし、遅いテン
ポもよし、禁欲的もよし、歌ってもよし、とざまざまな表現に対応するため各指揮者の個性が如実に現れるフレーズで
もある。

 手元にあるCDを耳にするとブリュッヘン(*1)とケーゲル(*2)は楽譜とおり速いテンポでメロディーは歌わずに禁欲的
にスゥと奏でる。すると秋風が吹き去るような侘しい味わいが滲み出る。


(楽譜:1)

 逆にワルター(*3)はゆったりしたテンポでメロディーを歌い、2小節目までクレッシェンドさせ3小節目にポルタメン
ト(ずり上げ)をかけ甘美でロマンティクな味わいを出している(楽譜:2)。


(楽譜:2)

 そしてマークは・・・・冒頭から鋭角なクレッシェンドを敢行、そして3小節目の前半で鋭角的なディミヌエンドをかけ、
さらに後半のフレーズにクレッシェンドをかける。大胆な表情づけを披露する。


(楽譜:3)

 これによって、あの有名なフレーズに立体的な彫の深さを与え「秋風が吹き去るような侘しい味わい」と「ロマン
ティクな味わい」の両立を図り新たな魅力を掘り起こしているのである。因みに1969年録音のフィルハーモニア・フ
ンガリカ盤ではフレーズの抑揚はごく僅かである。
 テンポはやや遅めであるがホルンの強奏や内声部の抉りによって感傷的な雰囲気の中にも、きりりと引き締まっ
た演奏を聴かせてくれる。
 さらに耳を獲れえるのは弦楽器群の表情の豊かさである。ときには繊細に、ときには熾烈に、ときには雄弁にと
「ジャン」といった弦による何気ない合いの手も意味深く響くのである。
 そして各パートのバランスは立体的かつ明瞭に表現されガッシリとした構築美と格調の高さをも感じさせる。どこ
までも自然体でありながらマークの意志が隅々まで行き渡りパドヴァ・ヴェネト管弦楽団が単なる機械的に指揮者
の指示に従ったのでなく共感を伴って演奏していることが伝わってくるのである。

(*1)18世紀オーケストラ 録音:1985年 PHILIPS
(*2)ウィーンPO 録音:1952年 SONY CLASSICAL
(*3)ライピチヒRSO 録音:? PILZ

 03/04/26


 
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