私が観た映画でもっとも腹の底から笑い、もっとも深い感銘を受けた映画であり。私
にとって永遠のNo,1の作品「転校生」について語ります。

 もし、この映画を観ていない方は、この文章を読まないことをお勧めします。なにも知
らないで観た方が100倍楽しめる映画ですから。


 以下、重箱の隅をツツくようなマニアックな話しのオンパレードです。


○オープニング
 黒い画面に、白い線が走り、四角を作り出す。カタ・カタ・カタ映写機の響きとともに、
枠の中に A MOVIE の文字が浮かぶ・・・・
 小さな画面に、ある景色が映し出される。白黒の画面・・・・バックにはヴァイオリンの甘
いメロディー、シューマン「トロイメライ」・・・・山々と海、山をぬって走る鉄道、石段を登る
子犬・・・・この景色は大林監督のお嬢さん、千茱萸さんが撮影したモノだそうです。

 「おお、尾道の景色か。こうやって、あらためて見ると、なかなかきれいなもんじゃのう」
と斉藤一夫の親父の声・・・・
 そう、この景色が尾道であり、この物語の尾道が舞台であることが、明らかにされるの
です。

 なぜか、映画は白黒のままでです。

@原作者:山中 恒氏は小樽。脚本:剣持 亘氏は小田原。監督:大林宣彦氏 は尾道。
 それぞれの故郷が念頭にあったようです。
 
○学校の女子更衣室
 女子更衣室でふざける一夫と悪ガキたち、更衣室の様子を察知する川原敬子、教室での
一夫と悪ガキの会話、のちのちの物語の伏線になっていますね。

○学校の教室
 やがて転校生である斉藤一美と大野先生が教室に入ってくる。このとき一美は一夫が幼
なじみの斉藤一夫と気づき、声をかけるが・・・・一夫は賢明に否定する。男の子って、こん
なとき照れくさいんでしょうね。

○放送室
 次に注目するのは、放送室の場面。ここで一美はある”しぐさ”をするので、よ〜く覚えてお
きましょう。

○下校と一夫・一美の幼い頃の回想
ここで、下校の場面になり、遠くに悪ふざけをする3人組が見られる。ここで、一夫と一美の幼
い頃の回想となり、画面はサイレント映画のようになります。
 このエピソードは腹がよじれるくらいに笑える!ここでの効果音に注意!

○オープニング・タイトル
 一夫が一美のスカートをめくり、チャイコフスキー「アンダンテ・カンタービレ」のメロディーが
流れオープニング・タイトルがはじまります。
 何気なく映し出される尾道の風景(山から海へ向けられたアングルがイイですね)蝉の声・
船の汽笛・猫・何気なく振り向く一美・電車の汽笛(最後の方で木々が写し出されます、この映
像を忘れずに)。
 やがて、御袖天満宮に一美が現れ、石段の上で、街の風景をながめる(このときの表情に
注目!イイ表情です)。

○御袖天満宮
 さあ、いよいよ階段落ちです!このときの音響効果がイイですね。蝉の鳴き声が瞬間止ま
り、不思議な音響(特に空き缶の音が響きます)一瞬の静寂が訪れ、また蝉の鳴き声が戻り
ます。

○踏切
 踏切で立つ小林さん(ここでは役名で表記すると、混乱するので役者さんの名前で表記し
ます)貨物列車が通り、画面が徐々にカラーに変わります。

 これから、心と体の入れ替わった一夫と一美のドタバタが楽しめます。ここからは理屈抜
きで楽しみましょう。

 一夫と一美の家や家庭が対照的に描かれているのが面白いですね。

@映画「さびしんぼう」で樹木希林さんと小林聡美さんが母娘役で登場する。
 「転校生」のパロディーが楽しめる。

○一美家の仏間
 おばちゃんの遺影を必死に拝む小林さん。効果音に注意!

○一美の部屋
 ベットに倒れ込む小林さん、このとき、頭の位置が枕より低く、ずり上がる動作が見られ
る。一美の肉体に、なれていない一夫の様子がうかがえます。

○登校中
 悪ガキ、佐久井が小林さんのスカートをめくり、逃げる佐久井を猛然と追いかける。この
映画ドタバタの最高のひとつ。

@このときBGMのオッフェンバックの「天国と地獄」のフレンチ・カン・カンが流れる。
 この映画BGMが非常に少なく、オリジナル曲は、ほとんどない。蝉の鳴き声、フェリー
 の汽笛、電車の警笛、街の音が随所に聴かれます。

○授業中
 このとき川原敬子の様子に注目しましょう。授業中だけでなく、各場面で川原敬子が何げ
 なく登場して、ふたりを見守っています。

○学校の屋上
 大野先生の数学の授業でドラブルが起き、一夫・一美・大野先生が、学校の屋上に駆け上
がる。このとき、新幹線の警笛が印象に残ります。
 
@ここで、重箱の隅をツツくお話を・・・・ここで小林さん、大野先生にパンチをお見舞い
 するのですが、よ〜く、見るとパンチは当たっていません。すぐれたディフェンス能力を
 みせる大野先生いや志穂美悦子さん(^^;;;

○千光寺公園・文学の小道
 尾道の名所のひとつ。ここで一夫と一美はチンピラに絡まれる。このチンピラ役の鴨志田
 さん、この映画の美術スタッフのようです。

○一美家の食堂でハガキを書く母
 この場面、おばあちゃんのことが語られる。効果音に注意!

○水着選びの後の喫茶店
 店内に流れるBGMを、よ〜く聞きましょう。唯一のオリジナル曲が使われています。後に
 「廃市」に使われる曲です。
 因みにビデオのSPECIAL EDITION版では違う曲になっています。この曲にもビックリ。
 (注:後日情報をいただきました。劇場公開時はユーミンの「守ってあげたい」 だったそう
 ですSpecal thanks Dさん)

○向島の水泳教室
 ここでの尾美くん、本当に溺れたそうです。

○川原敬子家
 ここで勘の鋭い川原さんが、一夫と一美の関係を聞き出し、小林さんは本当のことを言いか
ける。因みに、このとき直すモデル・カーはイタリアのスーパー・カー,ランボルギーニ・カウン
タックですね。
 バックに流れる曲はマスネー「タイスの瞑想曲」です。

○福山城
 一夫と一美の秘密を知っている吉野アケミの「SF好きの私をからかっている・・・・一美の作
り話しにしては出来過ぎ・・・・」このセリフ。一美の兄との会話で「女の子にSFは無理」にか
かっています。

○尾美くん、家を飛び出し瀬戸田行きの船に乗る
 このとき夕焼けの瀬戸内海の風景が美しいですね。バックにバッハ「G線上のアリア」が流
れる。

@このとき半田商事の酔った幹事、鶴田 忍さん。10数年後、小林聡美さんと「てなもんや
 商社」で共演します。

○尾道行きの船で
 このときカメラを持った大林千茱萸さんが登場します。

○御袖天満宮
 再び、階段落ちで、元通りの斉藤一夫と斉藤一美に戻ります。このときの尾美くん、気絶した
小林さんを抱きかかえ起こしますが、小林さん頭を石畳に、おもいっきりぶつけます。痛かった
でしょうね。
 オープニングで写された木々が写し出され映像の色が徐々に後退して白黒に変わります。

 ここから役名で表記します。

○引っ越し直前の斉藤家
 シューマン「トロイメライ」が流れ。斉藤一美が現れ一夫が声をかけます。
このとき、放送室での”しぐさ”が見られます、かわいイッ。

○トラックを追いかける斉藤一美
 「さよなら、ワタシ」「さよなら、オレ」8mmの映像に変わり、どんどん遠ざかる・・・・サイレント
映画のようになり「さよなら、オレ」の声と同時に一美が振り返り、フィルムが切れたように終わ
る・・・・感動的なラスト・シーンですね。

○エンディング・タイトル
 オッフェンバックの「天国と地獄」のフレンチ・カン・カンとマスネー「タイスの瞑想曲」が流れる。
 静かなラスト・シーンと対照的なフレンチ・カン・カンまた、それと対照的なタイスの瞑想曲がコ
ントラストがいいですね。

 以上、マニアックな話しでした・・・


99/09/18

●参考文献
・大林宣彦/ワンス・アポン・ア・タイム尾道/フィルムアート社
・大林宣彦/映画監督/実業之日本社
●ビデオ・ソフト
・「転校生」<ノーカット劇場版>/バップ 60107
・「転校生」<SPECIAL EDITION版>/バップ VPVT-64233


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