●何でオーケストラには指揮者がいるの?

SATOちゃん:

 飯守さん、何でオーケストラには指揮者がいるの?そもそも指揮者の役割とはなに?

飯守:

 そうだね・・・・とりあえず・・・・手持ちの資料が多いベートーヴェンの交響曲第9番
の第1楽章(以下、この曲と書きます)のテンポに絞ろうか。

 まず手持ちの資料からこの曲の演奏時間を調べると・・・

最短:トスカニーニ/指揮、約12分30秒
         (NBC交響楽団1939年12月2日録音)
最長:宇野功芳/指揮、約18分30秒
         (新星日本交響楽団1992年12月9日録音)

 その差約6分!!!

SATOちゃん:

 え〜っ、じゃあぁ〜どっちが正しいのぉ〜???

飯守:

 そだね〜っ、正しい?正しくない?の前に楽譜があるのだから見てみようね!

 楽譜にメトロノームの指定(注1)が書かれていて単純計算すると約12分30秒から
13分になるんだ。

SATOちゃん

 じゃ〜、トスカニーニさんが正しいの?

飯守:

 その前に、もう一つ「アレグロ・マ・ノン・トロッポ・ウン・ポコ・マエストーソ」と書
いてある。
 これは作曲者がこの曲のテンポとかイメージをあらわした言葉でCDの解説書では、
「快速に、しかし速すぎないように、少し威厳をもて」と訳されている。
 これをもっと噛み砕くと「速いテンポの曲だけど、速すぎるのはダメ!少し、いかめし
く、おごそかな感じの曲ね」になるんだ。

 じつは12分30秒から13分の演奏は超速いテンポなんだ!僕の持っているCDの最
速はミュンシュ指揮で約14分(メトロノームの指定より約1分遅い)なんだけど、超速
いテンポに感じるわけ。けれども「いかめしく、おごそかな感じ」ではない。

 最長の宇野功芳のCDを聴くと、こんどは超遅いテンポに感じる。そして、超「いかめし
く、おごそかな感じ」がする。

 つまりミュンシュは作曲者が書き残した「メトロノームの指定」と「速いテンポの曲」
に重点を置いてテンポ設定をして、宇野功芳は「いかめしく、おごそかな感じの曲」に重
点を置いたテンポ設定なんだ。(注2)

SATOちゃん:

 はぁ〜???

飯守:

 オケのメンバーも各自、それぞれ「この曲のテンポはこれくらいがイイ!」とイメージ
をもっているんだね。

 また、実際の音楽はテンポは常に一定ではなく、たとえば楽譜に「少しテンポをゆっく
りに」と書いてある。「少し」といっても感じ方は人それぞれ、意思統一しないと、そこ
でアンサンブルが乱れる(各楽器の音がバラバラになる)。

 さぁ、ここで指揮者の登場だ!オケのメンバーが「ああだ、こうだ」と決めるより、一
人の指揮者がビシッと「このテンポでヤル!」この部分は「こうだ!」と決めて意思統一
をはかると効率的でしょ。

SATOちゃん:

 なるほどね。

飯守:

 とまぁ、指揮者は自分のもっているイメージをオケに伝えるのだけど、オケのメンバー
のイメージと違う、あまり極端なテンポだったりするとオケ側から速すぎて(遅すぎて)
演奏しずらいと不平が出たりする。指揮者は強制したり、妥協したり、説明しながらオケ
のメンバーに自分のイメージを伝え意思統一をおこなうのね。
 
 まぁ、テンポだけでもこんなに長くなりましたね。

 実際は音の強弱・楽器のバランス・楽譜の解釈・会場の音響効果などさまざまな問題が
あり、それを考えて音作りをして、オケのメンバーの意思統一をはかるのが指揮者の仕事
なんだね。

 その結果、同じ曲でも指揮者によってビックリするほど違って聞こえてくることもある。

 それと、もう一つお客様の存在だ!

 指揮者が自分のイメージをオケに100%伝えて指揮者が満足した演奏ができた!とし
てもお客様が満足しなかったら指揮者は非難される。場合によってはオケからも非難される。

 だから指揮者は演奏における責任者みたいな人なんだ。説明をわかりやすくするため、
効率的って言葉を使ったけど、ここが一番重要なんだね。

SATOちゃん:

 飯守さん、ありがとうございました。

(注1)メトロノームの指定=テンポを客観的にあらわしたもの。
    じつはベートーヴェンの書き込んだメトロノームの指定は色々な問題があるがここ
    では割愛する。
(注2)極端な例をあげた、強引な説明である。噛み砕いて説明した結果なのでご容赦下さい。

参考文献
・「第九をうたおう」日本放送出版協会
・「第九のすべて」音楽之友社


 00/01/24


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