●ブルックナー 交響曲 第8番
 ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 
 録音:1963年 1月
 Westminster



 ブルックナーを最初に聴いたのはクナ様/ベルリンPOの4番「ロマンティック」でした。聴いた印象は漠
然としてまとまりに欠ける感じがあり,あまり好きになれなかった。次に聴いたのはこのクナ様の8番であり、
私はこの録音を聴いてブルックナーに開眼したようなものだ・・・・

 第1楽章冒頭の主題の提示,緊迫した雰囲気,聴き手はクナ様の作り出す雄大な世界に放り込まれる。
 7:34からの繰り返しではイン・テンポを堅持して繰り返しのたびに膨張するようにスケールが大きくなり
頂点を構築する。8:22からの盛り上がりでは常に響きにゆとりがあり懐の深さを感じる。
 13:13経過句における膨張する雰囲気、13:45クライマックスでの金管はゆとりがある故にさらなる奥
行きを感じる。その後の消えゆくような終結,間の取り方とテンポの落とし方は緻密な印象を受ける。

 第2楽章冒頭の弦,金管,ティンパニーの響きは著しく武骨な感じがする。哀愁漂う木管の応答を交えガッ
シリした推進力と丹念に積み重ねるアプローチによる巨大なスケルツォが聴ける。
 中間部での哀愁漂う弦の奏で方など聴き手のツボを押さえていると思う。6:48からの強弱の付け方が印
象に残る。

 第3楽章のヴァイオリンの奏で方は華麗とは正反対で渋く,飾り気がない。渋い茶碗などの日本の焼き物
を連想する。形はややいびつで,色使いも地味である。しかし何故か引きつけられ美しさを感じてしまう。
 1:57から一歩,一歩,上昇してハープが舞い降りる様は流麗ではないのに心が揺り動かされる。
 20:03からの執拗な繰り返しから頂点へ向かい,やがて終結して行く様は武骨一本槍でなく繊細な表現
を行っている顕著な例だと思う。
 
 第4楽章の冒頭のクレッシエンド,テンポ操作,リズムの切れ,抑制を効かせた金管,ティンパニーの切り
込み,第2,3主題の脈打つ弦の歌わせ方,間の入れ方,金管のやわらかな響き,木管の可憐な美しさ,す
ばらしいコントロールである。クナ様のこまやかな気配りを聴くことができる。こを聴けばクナ様のリハーサル
嫌いが大ウソ,誇大,誇張であることがわかる)。
 6:26からのティンパニーの活かし方,11:55のタメの効果,16:59からのじっくり腰を落ち着けたテンポ
操作などはクナ様を聴く醍醐味である。
 コーダーでは抑制を効かせた金管を解放し思いっきり吹かせ,フレーズを積み重ね,最後の3音を一音一
音噛みしめ堂々と締め括る。

 一音一音飾らず丹念に積み重ねるアプローチによってゴツゴツした印象を受ける。そこが素朴な味わいを
感じさせるゆえんであると思う。また,感情剥き出しの熱演とは違い,響きに常にゆとりがあり,それ故に奥
行きが加わり,雄大さにつながっている。一聴すると地味に感じるが聴き進むと雄大な拡がりと大河のような
浪々たる流れのブル8を聴くことができる。
 このようにミュンヘンPOとのブル8はクナ様の特長である雄大さと素朴な味わいが刻印された最良の録音
だと思う。

TOWER RECORDSで購入



 01/03/30

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